元町商店街

登場手塚作品:『アドルフに告ぐ』(1983~1985)

『アドルフに告ぐ』のもう一人の主人公、アドルフ・カミル。ユダヤ人でありながら神戸に生まれ育った彼はどこに住んでいたのか。作中で「元町のパン屋『ブルーメン』とこのアドルフです」と名乗っていることから[元町商店街]のある[元町通]界隈に住んでいた設定と思われるが、明確なモデルとなった店は元町には存在しない。ただ、フロインドリーブやユーハイムなど、ドイツ系の老舗洋菓子店が神戸にあったことは作品の背景として生かされているように思う。

カミルが関西弁を喋っていることや「わいら山本通りのお上品なぼんぼんとは暮らしがちゃうんや」といった台詞の細かい部分で、手塚の神戸に対する知識をかいまみることができる。

[神戸元町商店街]は、元町通1丁目と2丁目を統合した1番街、3~6丁目まで、東西約1.2キロメートルにわたって店が立ち並ぶアーケード商店街で、その歴史は明治時代から140年あまりになる。

絵葉書「華やかなる商店が軒を並べる元町通り」

上は、元町通1丁目から2丁目界隈を映した戦前の絵葉書。奥に大丸の「大」の字が見えることから、東向きであることが判る。道の両側には元町商店街のシンボル鈴蘭灯。デパートメントの出現に対抗し、夜でも明るく美しい通りを作り出すために設置されたのがこの鈴蘭灯だったという。「アドルフに告ぐ」でも峠草平が赤羽警部の追手から逃げるシーンで元町通の鈴蘭灯が描かれている。

『アドルフに告ぐ』第7章 峠草平が赤羽警部の追手から逃げるシーンで元町の高架と元町商店街の鈴蘭灯が描かれている。 ©手塚プロダクション

現在の元町5丁目商店街には昭和初期の鈴蘭灯が復刻されている。鈴蘭灯は1番街~6丁目まで街区ごとに違った意匠がこらされたデザインとなっている。

ヒットラー・ユーゲント来日・・・昭和13(1938)年8月16日~11月12日

日独青少年団交歓事業の一環として、ドイツ・ナチス党の青年団ヒットラー・ユーゲント一行30名が来日した。横浜港から入国し、神戸港から出国するまでの89日間の滞在中、一行は近衛文麿首相や各大臣と接見した他、富士登山や全国青少年団連合歓迎大会への出席した。8月28日から9月12日までは東北地方・北海道を、10月2日から11月12日までは東海・近畿・中国・九州地方を視察旅行し、各地で歓迎を受けた。最終日の11月12日には神戸で、ドイツから帰国したばかりの日本側青年団と帰国直前のヒットラー・ユーゲント一行との間で交歓会が開催された。

11月に最終地の神戸を訪れ、元町通4丁目を行進する「ヒットラーユーゲント」。沿道でナチスドイツ旗と日の丸旗を振る人々が見える。