下の池(瓢箪池)

手塚兄弟の間で「瓢箪池」と呼んでいた下の池。手塚治虫が暮らしていた当時、「下の池」の向か い側には「上の池」があり、現在は埋めたれられて御殿山公園となっている。

「昆虫手帳」では「上の池」は「釣り池」と記してあった。「昆虫手帳」には下の池の位置に「ヘウタン池」という表記されていたが、どうしてここが“瓢箪”なのか。

弟の手塚浩さんはこのように語る。

「あぜ道の西側(現在では埋め立 てられて御殿山公園になっている)の小さい池が「釣り池」となっているのであれば、それは治虫が独自に称していた呼び名で しょう。普段は、兄弟では二つの池全体で「へうたん池」と呼んでいました。この「釣り池」は「昆虫 手帳」にそのように記されているのであれば、そのまま有効としましょう。瓢箪池(両方で)で釣り人を見た記憶はほとんどありませんが、長さ7、8cmほど の横長の、黒い色をした通称「ドブ貝」と言われた貝の一 種は多く棲息し、食用になるということでタニシなどと共に採取している人達は時々見かけました。周辺の小川にはメダカや小さなエビが多産し、池にはギンヤ ンマだとかウチワヤンマなどの蜻蜒(ヤンマ)類が飛び交い、春季はレンゲやタンポポが咲き乱れて、夢のような風情でした。ついでながら、この池の東側の土手周辺には、非常に珍しい蝶が棲息していました。治虫はその蝶を一頭採集して今でも標本が残されて いますが(私が保管)恐らくその土手で捕獲したものだろうと推測しています。」

この蝶の標本は手塚浩さんが保管し、後に手塚治虫記念館に寄贈された。オオウラギンヒョウモンと称するこの蝶は、もともと宝塚では極珍な蝶で、全国的に見ても 1980年代から急速に減少。現在では「絶滅危惧種」に指定されている学術的な価値の高い蝶だそうである。写真上 が1943年に治虫先生が採集した♂。下が1946年に浩さんが採集した♀。現在、兵庫県宝塚産としては日本で僅か2頭だけ、という非常に貴重な標本である。加えて、手塚治虫本人が採集したという点からも 正に「お宝」と言えるだろう。