登場手塚作品:『アドルフに告ぐ』(1983~1985)
「その翌日、夏日の照りつける廃墟の御堂筋を一台の軍用車が走り去った」
後期の名作『アドルフに告ぐ』の終盤は堂島が舞台となっている。神戸で被災した主人公・峠草平は大阪の軍人・本多大佐を頼り、彼の手配で妻の由季江を堂島にあった阪大病院に入院させる。手厚い看護を受けるも、妻は身ごもったまま植物状態に。その年の8月15日、終戦を迎える。由李江は帝王切開で娘の由を出産。峠は男手一つで娘を育て、時は流れ大団円―。
『アドルフに告ぐ』に描かれた堂島の阪大病院は、実は手塚治虫自身が医学を学んだ学舎でもあった。昭和20年(1945)、手塚は中之島にある大阪大学付属医学専門部に入学。医学の道を志しながら漫画を描き続ける。自伝漫画『がちゃぼい一代記』には、授業中に漫画を描いて教授の大目玉を食ったという阪大時代のエピソードが描かれている。そして卒業後は1年間、阪大病院でインターン生活を送った。