登場手塚作品:『アドルフに告ぐ』(1983~1985)
『アドルフに告ぐ』第29章で、ドイツ劣勢の戦局を聞いたアドルフ・カウフマンは気が立ったまま、クラブ・コンコルディアを後にする。そこで、偶然エリザ・ゲルトハイマーと出会う。エリザへの未練を断ち切れないカウフマンは、「君のベルリンに残してきた家族の手掛かりをつかんだ」と嘘をつく。このシーンの背景で描かれているのが、シュウエケ邸である。カウフマンの後ろに描かれている門扉や石畳などが正確に描かれている。
シュウエケ邸は、明治29(1896)年、建築家アレクサンダー・ネルソン・ハンセルの自邸として建てられた。隣接する門兆鴻邸、塩屋の旧グッゲンハイム邸、『アドルフに告ぐ』に登場するクラブ・コンコルディアもハンセルの設計である。ハンセルは英国王立建築家協会正会員で、同時代の日本でこのフェローの資格を持っていたのは他にジョサイア・コンドルのみである。
日本文化への憧れからか屋根にはシャチホコがあるなど、遊び心のあるデザインが感じられる。
切妻屋根の外観にスティックスタイルの技法が用いられている。このスティックスタイルの外観は『アドルフに告ぐ』のカウフマン邸の外観にも取り入れられている。
長らく非公開であったが2023年11月に開催された神戸モダン建築祭で公開された。