敦賀港は戦前、ロシア革命の動乱に巻き込まれ、シベリア鉄道で救出されたポーランド孤児や、ナチスドイツの手から逃れ、リトアニア・カウナスの領事代理の杉原千畝が発給した「命のビザ」を持って上陸したユダヤ人難民の受入港となった。シベリア経由の欧亜国際連絡列車切符や、杉原千畝が発行した通過ビザなど、人道的役割を果たした敦賀港に関する資料を展示している。
『アドルフに告ぐ』では、カウフマンの助けにより、エリザがドイツから日本に向けて単身亡命する様子が描かれている。カミルがエリザを神戸港に迎えに行くシーンにはには「昭和15年(1940)11月」とあり、時期的には杉原千畝がリトアニアでビザ発給していた1940年8月と合致する。ただ手塚が杉原千畝のことを連載当時知っていたかどうかは定かではない。
またこの翌昭和16年3月、手塚の父粲は丹平写真倶楽部の仲間と神戸在留ユダヤ人の撮影会に参加している。この時神戸で撮影された写真は同年5月大阪朝日会館で行われた写真展「第23回丹平展」で「流氓(るぼう)ユダヤ」と題して発表された。その後『寫眞文化』昭和16年10月号に掲載されている。しかし、このことも漫画とは直接的な関連性は見当たらない。『アドルフに告ぐ』はあくまで手塚独自の歴史解釈の上で描かれたオリジナルストーリーと言えよう。